鵜野森の幸延寺の道を隔てて前のところを東京都町田市と相模原市を分ける境川が流れています。 その川べりの鹿島神社の近くに池の谷戸というところがあります。
むかし、 ここにもお寺があって、境内に大きな池がありました。 その寺に若い寺男がおりました。 いつか弟子入りをして自分も坊さんになるつもりで、一生懸命働いていました。 しかしいつしか青春の血がたぎるままに、村の娘と人目をしのぶ仲になっていました。
夜毎夜毎二人は逢う瀬を楽しんでいました。
ある春のおぼろ夜のことです。 いつものように家を抜け出してきた娘と、熱い恋のささやきを交わしていました。
夢のような時間は瞬く間に過ぎていきました。 その時です、 あたりがぐらぐらゆれ始めました。 今まで感じたことない凄いゆれです。 「地震だ!」二人は立つことも出来ずただ抱き合うだけです。
まさに天柱砕け地軸折れ、平和な村里はたちまち阿鼻叫喚の巷になりました。
がらがらと鐘つき堂も崩れ落ちて、二人は抱き合ったまま釣り鐘の下敷きとなり、鐘もろとも池の中に落ちて、永遠に帰らぬものとなってしまいました。 悲恋の恨みは池に残りましたが、時の流れは無情、その池は今はなく、ただ哀話として残るのみです。
座間美都治
相模原民話伝説集より